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「母さんって何をしてた人?」 夜、忍具の手入をしている父に翠は尋ねた。 「どうした急に?」 手を休めず父は応える。 「男の人達が言ってた。『恐ろしい女だ』って」 一瞬父の手が止まった。 「聞き違いさ」 「本当だもん。私は『げっかいくん』の娘だから皆の首を斬――」 突然父が拳で力任せに床を叩いた。 翠は驚いて黙る。こんな乱暴な父を見たのは初めてだ。 父は溜め息を吐いて暫く眉間に手を当て考えていたが、真直ぐ翠の目を見て 話し始めた。 「良いか翠。母ちゃんの事をとやかく言う奴は多い。 でも、連中が何と言おうと母ちゃんは誰より強くて優しい人だった――本当さ。 嫌な事や辛い事を沢山乗り越えて父ちゃんなんかと一緒になってくれたし、 命懸けでお前を産んでくれた。 生きた時間は短かったけど母ちゃんは一生懸命生き抜いたんだ。 その母ちゃんそっくりのお前も強くて優しい子だよ。 父ちゃんが言うんだ、間違い無いぞ」 父が初めて語る母は男達が話していたものと程遠い。 だが翠は父の話を信じる事にした。 「でも怒った母ちゃんはおっかなくてなぁ。 言付け破って父ちゃん忍術教えちまったからきっとあの世でカンカンだ」 慌てて翠は言う。 「私が怒らないでって母さんに言う。父さんは悪くないって」 「ありがとよ。母ちゃんお前には甘いだろうからきっと父ちゃん見逃して貰えるな」 父は翠の頭を撫でて悪戯っぽくパチリと片目を閉じる。 まだ翠が幼く、比較的世も安定していた頃だった。 うたかた9
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一人の男が駆けて去って行く騎馬達を山寺の屋根の上から眺めていた。 長めの橙色の髪を鉢金で引っ詰めた男は四十に差し掛かった頃で、 器用に軸足を使って空中に腰を下ろしている。 (やっぱり若旦那は来なかったか) 主をそのまま小さくした様な少年が一行に居ないのを見て溜め息を吐く。 「やれやれ…」 あの少年をどうやって宥め透かして此所まで連れて来るべきか。 男は暫し黙考する。 その時背後に気配を感じた。 「ちょっとアンタ、此所で何して……ってあれ?」 若い男の声だ。 振り向くと黒い脛巾を着けた青年が居た。 「よう、また会ったな若僧」 独眼竜が直々に組織した忍集団は揃いの黒革の脛巾をしている事から 黒脛巾組と呼ばれている。 少数精鋭で人数は最盛期の三つ者に比べれば一割程度でしかないが、 殊に諜報や籠絡に於て群を抜いていた。 「真田の忍隊長の親父さんじゃない。何の用だい?」 青年は顔を見るなり親しげに話し掛けた。 「ちっと様子見に来ただけだし、もう帰るわ」 うぅん、と首を回して忍隊長は立ち上がる。 「頃合を見てあの撥ねっ返りを外に出す。頼めるか?」 「任せてくれ。親父さんは?」 青年に親父呼ばわりされても気に留めず忍隊長はヘラっと笑った。 「俺は良いさ。俺達みたいな古い戦忍はここですっぱり滅んだ方が良い。 ……それに」 一瞬、忍隊長の目がとても穏やかになって青年は驚いた。 「あいつの母親を独りにしとけないからな」 うたかた3
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「始まったか」 青い鎧兜に身を包んだ隻眼の男が呟いた。 「左様で」 傍らには山寺から戻った小十郎が控えている。 「時に政宗様。今少し陣を前に出されては如何でしょう。 徳川殿の目が光っておりまする故」 それは暗に家康が抱える伊賀者達が自軍に忍び込んでいる事を指した。 恐らく将の働きを細大漏らさず報告する為であり、怠けていれば後で咎められるだろう。 「気にすんな小十郎。こっちは昨日散々痛い目見たんだぜ? 今日は誰かに譲ってやらなきゃunfairnessってもんだ」 「ですが――」 カラカラと政宗は笑う。 「Ha!こんなつまんねぇ戦、高みの見物で充分さ。 万が一徳川本陣の馬印が倒されたら動く。焦らず構えてろ」 最早小十郎は黙った。徳川の馬印が倒れるなど有り得ない。 それに昨日の戦で著しい損害を受けた自軍を徒に動かす訳には行かなかった。 政宗も本当は戦いたくてうずうずしているが、これ以上損害を被らぬ為に自重していた。 「所でお前のprincessは無事か?」 暇を持て余して政宗は話題を変える。 「はい。真田殿が政宗様に深く感謝しているとの事です」 「Shit!幸村め一切合切俺に押し付けやがって。こっちは良い迷惑って奴だ」 口では悪態をついているが政宗は上機嫌なのが良く分かる。 ――あのお二方には敵味方を越えた友誼があるのだ 以前父から聞いた言葉を小十郎は反芻した。 (阿梅殿と私も敵味方を越えて夫婦になれるだろうか。 ――たとえ私が真田殿を斬り、あの弟をも斬ったとしても) 青ざめ震える阿梅の顔が一瞬胸に浮んだが、小十郎の理性はすぐにそれを打ち消す。 (何れにせよ生きて帰った時の話だ) うたかた7
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夕暮れが迫っていた。 幸村達が出陣してから半日以上が経過している。 中庭に立つ父の傍らに翠は久し振りにそれを見た。 背中の大きく開いた黒服を着た若い女の幻だ。 女は自分だけに見え、いつも後ろを向いている。 「父ちゃん一応隊長だろ?だから色々あるんだよ」 そう父が気遣う娘を丸め込む時、決って若い女は姿を現した。 父の傍らにそっと寄り添い、背や肩に手を置いている事もある。 小さい頃から何度も見て来たせいか怖いと思った事は無い。 今日女は父の背に取り縋っていた。静かにかぶりを振り、肩を震わせている。 翠は息を飲んだ。 初めて振り返ってこちらを見た女の顔は、驚く程自分に良く似ている。 (母さん?) 泣き顔のまま笑みを浮べ、父の肩をポンと叩くと女の幻は淡雪の様に消えた。 「翠か」 背を向けたまま父が呼ぶ。 「親父、今…」 「うん?」 父の手には母の形見の翡翠の簪が握られていた。 恐らく父は母に相談したい事があったのだろう。 母もそれに応えるべく幻となって現れたのではないか――翠はそう直感した。 「母さんに何話してたの?」 「色々さ」 「何か言ってた?」 父は肩を竦めて笑う。 「どうだろうな。でも傍であいつが聞いてた気がするんだ」 「誰か泣いてたよ」 「え?」 「黒い服の女の人が泣いてた。今親父の背中に抱き付いてさ、イヤイヤって」 父は簪に視線を落とした。 「そうか……」 顔を上げ宵の明星を見上げる。 「……そうか」 翠には父が寂しげに笑っている様に見えた。 うたかた10
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入梅も間近な頃、赤子を抱いて現れた佐助に幸村は仰天した。 先の遠征の直前に所帯を持ったが難産で亡くして鰥夫になったのだと言う。 「結局三月かそこらしか一緒に過ごせなかったよ。可哀相な事したな」 「後添えは貰わぬのか?」 「まだそこまで考えられなくてね。差当り乳母を雇って凌ぐさ」 佐助は子の母親に触れなかったが、長じるにつれそれが誰であるか明らかになった。 「翠は母親に良く似ておるな」 ある時幸村は幼い翠に言った事がある。 「幸村様は母をご存じですか?」 七つになった翠はびっくりした。 「ああ、良く知っておる。佐助から聞いておらぬか?」 翠は首を振る。 「そうか……」 それから数日後、翠は偶然男達の会話を耳に挟んだ。 「……しかしあれも母に益々似て来たな」 「あの忍も恐ろしい女と契ったものよ」 「まさか月下為君とは……。他の男なら死んでおるわ」 「誰ぞあの娘と契って朝まで首が繋がっておるか賭けぬか?」 「止めておけ。あの女の娘なら皆首を掻き斬られてあの世行きじゃ。賭けにならぬ」 「相違無い……」 男達が自分と母の事を話題にしている事は分ったが、何故母が恐ろしいと言われるのだろう。 母の事を尋ねると父はいつも同じ答えを繰り返した。 「顔も性格も皆お前にそっくりさ。翠は本当母ちゃんに良く似てるよ」 父は母を恐ろしいなどと言った事は無い。なのに何故男達はあんな風に言うのだろうか。 「げっかいくん」という耳慣れぬ呼び名と、 あの女の娘なら皆首を掻き斬られてあの世行きだという言葉が 翠の頭にこびりついて離れなかった。 うたかた8
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うたかた【登録タグ う 水音ラル 島(Sakamotonorok) 曲】 作詞:霄 作曲:霄 唄:水音ラル 曲紹介 島(Sakamotonorok)氏の霄名義における作品。 作者のシリーズ1作目にして主人公の顛末が描かれる。(*1) 歌詞 (作者公開のドライブより転載) 遣(や)る方無く臥(ふ)して 時化る部屋と融(と)ける時計 暮れ泥(なず)む侭(まま) 不首尾な侭(まま)で 澱(よど)む夢に浸り濁り 其処(そこ)は怠惰に塗(まみ)れ 余りにも蒼然たる景色で 満たされずに底に沈むだけ 久しくなるあの日の行方は 泡になって浮かんだ 哀惜の海のダイバー 今夕の差し含(ぐ)みで滲(にじ)んだ 遣(や)る方は見つけられず 灯点(ひとも)し頃 困(こう)じる程 想える筈(はず)が 見えるは僅か 澱(よど)み 浸り 溺れ 薄命で 声は途絶え雲隠れで 行く先は未だ知り得ず 茫漠(ぼうばく)の奈落の底に堕ちる 戻らぬあの日の行方 泡になって混じった いつしかの蒼い泪(なみだ) 仄暗(ほのぐら)い過去を潤し爆(は)ぜた 無数の泡沫(うたかた)になる僕は 哀惜の海のダイバー 今夕の差し含(ぐ)みで染まった 生温(なまぬる)い風と 静寂で 包まれた街を偲(しの)んだ 止め処(ど)の無い様に 円(まど)かな祈りを 滞る部屋と 寂れたアパートに 付かぬ蛍光灯 止め処(ど)の無い様に 円(まど)かな祈りを 捧(ささ)げる迄(まで)… 泡になって浮かんだ 哀惜の海のダイバー 今夕の差し含(ぐ)みで滲(にじ)んだ コメント 名前 コメント
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うたかたの夢:A (ジャンヌ・ダルク(オルタ)(Grand order)) 個人の願望、幻想から生み出された生命体。 願望から生まれたが故に強い力を保有するが、同時に一つの生命体としては永遠に認められない。 全てが終わった後、彼女は静かに眠りに就く。
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「頼む。只でさえ母ちゃんの言付け破って忍術教えちまったんだからさ。 この上がさつな所が直らなかったら父ちゃんあの世で苦無の乱れ打ちだ」 つい懇願する口調になる。 佐助は気付かないが、それは女房を拝み倒した時と全く同じ口調だ。 そんな父親に冷たい一瞥くれただけで再び翠は外方を向いた。 「また女達を城から逃がすって。親父も警備に当たれって幸村様が言ってた」 「そうか。多分これで逃げる者は最後だろうな」 大坂城には二百人以上の娘が養女の名目で囚われていた。 彼女達は皆良家の子女ばかりで十二になると秀吉の閨に上がり妾となる。 その世話をする侍女達や下働きの者まで含めると女の数は相当なものだった。 「お前も行け。こんな負け戦に付き合う義理は無いぞ」 何度も佐助は促すが娘は頑として受け付けない。言外に父娘でと言っている。 佐助にとってそれは出来ない相談だった。 この戦は言わば天下獲りと言う国を挙げての乱痴気騒ぎの終点だ。 今までその祭の輪の中で踊り続けて来た大人が幕引をするべきで、 若い世代に背負わせる事は無い。 (やれやれ、本当に困った撥ねっ返りだ。頑固な所は一体誰に似たんだか……) 警備の合間、佐助は懐から取り出した玉簪を見詰めながら考えた。 娘の一度決めたら梃子でも動かない頑固さは父親譲りなのだが、 当の本人はてんで気付いていない。 その玉簪はどこにでもありふれた様な品だが、とても大切に佐助は扱う。 石に瑕は無いか暇さえあればしょっちゅう確かめた。 それほど大事な物なのに佐助は何処へでも玉簪を携えていく。 かつてこれを身に着けていた者の姿を重ねているかの様に、片時も離そうとしない。 (なぁ、お前はどう思う?) 朝日に照らされ玉簪の石が光った。 深い翠色を湛えた翡翠の玉を覗き込む佐助の目は、戦場に不釣合いな程穏やかだった。 うたかた5
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せいたかたけ 入手法/作り方 クッキーの種+ミュレットチーズ、熱する、GREAT 作成アイテム 上トレイ 下トレイ 方法 時間 SUCCESS FAIL GREAT 猶予 上トレイ 下トレイ 方法 時間 SUCCESS 腐ったFAIL GREAT 腐り復活 上トレイ 下トレイ 方法 時間 SUCCESS FAIL GREAT 猶予 腐った上トレイ - 作り方 時間 SUCCESS × GREAT 名前 コメント
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闇の中聳え立つそれは巨大な塔を思わせた。 濠を全て埋め立てられ無防備になった城は地の果てまで覆い尽くす大軍に 取り囲まれている。 大気はいつに無く張り詰め、その場に居る者が皆固唾を飲んで夜明けを 待っていた。 大軍の中から数機の騎馬が城門の前に進む。 「片倉小十郎御約束通り参上仕った。開門して頂きたい」 細面の優美な若者がそう告げると小十郎だけが門の内へ通された。 「片倉殿、突然の事ですまぬ」 赤備えの武士が小十郎に向かって頭を下げる。年は三十代半ばだろうか。 彼が戦の最中に矢文で娘との婚姻を申込んだのはまだ昨日の事だ。 「どうかお顔を上げて下さい。真田殿の武勇は殿や父から良く伺っております。 それで……」 小十郎は幸村の後ろに所在なげに立つ女子供を見た。 「阿梅」 幸村が呼ぶと年長の娘が顔を上げた。一目で青ざめているのが分かる。 「お前の婿になる片倉重綱殿だ」 怖々と前に進み出た娘は目を伏せたままだ。 「詳しくは後程。とにかく安全な場所まで参ろう」 「はい」 阿梅は小さな声で応えた。 「大助、お前も」 十を過ぎて間もない弟に阿梅は声を掛ける。 「大助は真田家の嫡男です。ここに残ります」 父親に良く似た少年はきっぱりと言った。 「阿梅殿」 小十郎に促され阿梅は身を割かれる思いで兄弟と共に城を後にした。 もう二度と生きて父と弟に会う事は無いのだ。 婚姻と肉親の死を同時に味わう混乱で呆然としたまま阿梅達兄弟は山寺に預けられた。 「戦が終ったら迎えに来る。不自由だが辛抱して欲しい」 短く言い残すと未来の夫は慌しく陣へ戻って行った。 (今日父が死に、弟が死に、戦の世が終るのか) 阿梅は頭の片隅でぼんやりと考えた。 うたかた2